酵母がアルコールを作る仕組み|醸造学のきほん #09
こんにちは。ゴールデンブルワリーの児玉です。
ここまでの工程で、甘い麦汁ができました。でも、これはまだビールではありません。アルコールも炭酸もない、ただの甘い液体です。
ここから先を担当するのは、人間ではありません。**酵母**です。
アサヒグループの研究者が、うまいことを言っています。「麦汁を作るのは人、ビールを作るのは酵母」。現場にいると、本当にそのとおりだと思います。
酵母は、糖を食べてアルコールと炭酸を出す
酵母は生き物です。麦汁の中の糖を食べて増え、その代謝の産物としてアルコールと二酸化炭素を出します。
化学的にはこういう流れです。グルコース(ブドウ糖)が解糖系という経路で分解されてピルビン酸になり、そこから酵素の働きでアセトアルデヒドを経て、エタノールと二酸化炭素になる(出典:Fermentis/日本醸造協会誌 1994/MIT OpenCourseWare)。
麦汁の中の糖は、主に3つです(出典:Fermentis/化学と生物 2020)。
- マルトース:50〜60%
- グルコース:約20%
- マルトトリオース:約20%
ここに醸造上の重要な差があります。**マルトトリオースは、下面発酵(ラガー)酵母はすべて食べられますが、上面発酵(エール)酵母は一部の株しか食べられません**(出典:Fermentis)。食べ残した糖はビールに残るので、これが飲み口の違いのひとつになります。
酸素があると増える、なければ酒を造る
面白いのは、酵母の振る舞いが酸素の有無で変わることです。
**酸素があるとき**、酵母は呼吸をします。糖を完全に分解してエネルギーを取り出し、盛んに増殖する。このとき糖の炭素は二酸化炭素になり、アルコールはほとんどできません。
**酸素がないとき**、酵母は発酵に切り替えます。糖を途中までしか分解できないので、エネルギーの取り分は少ない。代わりに、行き場を失った炭素がエタノールになります(出典:MIT OpenCourseWare)。
エネルギー効率で言うと、呼吸は発酵の18倍ほど効率がいい(出典:同上)。酵母にとってアルコールを作る発酵は、**効率の悪い、追い込まれたときの代謝**なのです。私たちはその「追い込まれた状態」を、わざわざ作ってやっているわけです。
とはいえ、仕込みの最初には酸素が要ります。酵母は細胞膜を作るのに酸素を必要とするからです。だから麦汁には最初にしっかり空気を入れ、その後は密閉して嫌気状態にする。**最初だけ呼吸させて増やし、あとは酒を造らせる**という段取りです。
発酵は3段階で進む
実際の発酵は、こんな順で進みます(出典:Wyeast)。
**一次発酵**:麦汁の酸素を使い切り、細胞膜の材料を作りながら増殖する。嫌気になるとエタノールと二酸化炭素を出し始める。香りの成分もこの時期にできる。
**二次発酵**:発酵の速度が落ち、ダイアセチル(バターのような香り)を酵母が吸い戻して処理する。酵母が塊になって沈み始める。
**熟成(コンディショニング)**:酵母を取り除き、ビールが澄み、硫黄臭やダイアセチルが抜けていく。
**二次発酵の「後片付け」が曲者**で、ここを急ぐとバター臭が残ります。発酵が終わったからといってすぐ冷やすと、酵母が仕事を終える前に沈んでしまう。待つことも仕事のうちです。
エールとラガーの違い
酵母の種類と温度で、ビールは2つの系統に分かれます(出典:酒類総合研究所)。
- **上面発酵(エール)**:15〜25℃。発酵が速く、香りが華やか
- **下面発酵(ラガー)**:5〜15℃。発酵がゆっくりで、すっきり澄んだ味
投入する酵母の量にも目安があり、エールで50〜80g/hl、ラガーで80〜120g/hlとされています(出典:Fermentis)。**ラガーのほうが低温で酵母が動きにくいので、多めに入れる**わけです。
発酵中のタンクは、生きている
現場の話をひとつ。
発酵が始まったタンクに耳を近づけると、パチパチと炭酸が弾ける音がします。上から覗けば泡の層が盛り上がり、色が変わり、日によって表情が違う。温度も、放っておけば酵母自身の発熱で上がっていきます。
**この数日間、私たちにできることは、温度を見て、そっとしておくことだけ**です。麦芽を選ぶのも、ホップを決めるのも、水を調整するのも人間の仕事ですが、最後にビールにするのは酵母の仕事。そこは譲るしかありません。
まとめ
- 麦汁をビールに変えるのは酵母。糖を食べてアルコールと二酸化炭素を出す
- 麦汁の糖はマルトース50〜60%・グルコース約20%・マルトトリオース約20%
- 酸素があれば酵母は呼吸して増え、なくなると発酵してアルコールを造る
- 発酵は一次・二次・熟成の3段階。二次でダイアセチルを処理させる時間が要る
- エールは15〜25℃、ラガーは5〜15℃。ラガーは酵母を多めに入れる
次回は「ビールの香りは酵母が作る」。バナナの香り、リンゴの香りが、どこから来るのかという話です。
このシリーズはYouTube「チェリーベル・ジャパン」でも、動画版を出しています。
この記事を書いているのは
福岡県福津市のクラフトビール醸造所 GOLDEN BREWERY(ゴールデンブルワリー)です。運営はチェリーベル・ジャパン株式会社。500Lの仕込み設備で、自社ブランドのビールを造りながら、他社さんのビール造りのお手伝いもしています。
醸造設備を探している方へ
ビール醸造の設備・資材を輸入販売しています。タンクや配管まわりはもちろん、これから醸造所を立ち上げたいという段階のご相談も受けています。実際にその設備で毎週仕込んでいる立場なので、カタログスペックではなく「使ってどうか」でお答えできます。
オリジナルビールを造りたい方へ
OEM製造を承っています。1000本からお受けしていて、ラベルだけを変える形から、レシピを一緒に考える形まで対応できます。ノンアルコールビールのOEMも可能です。飲食店さん、宿泊施設さん、イベントや記念品でのご相談が多いです。
※お酒は20歳になってから。


この記事へのコメントはありません。