ビールの味は、水で決まる|醸造学のきほん #05

こんにちは。ゴールデンブルワリーの児玉です。

ビールの中身の約90%は水です。量でいえば、水がいちばん多い原料ということになります(出典:日本醸造協会誌/サッポロビール 吉田郁也)。

同じレシピ、同じ麦芽、同じホップでも、水が違えば別のビールになります。今日はその話です。

ビールの約90%は水。量でいえば水がいちばん多い原料
ビールの約90%は水。量でいえば水がいちばん多い原料

ピルスナーが金色になったのは、水のおかげ

有名な話をひとつ。

1842年、チェコのピルゼンの醸造所が、ドイツのミュンヘンから技師を招きました。同じやり方で造らせたところ、ミュンヘンでは濃い色のビールになるはずが、ピルゼンでは黄金色のビールができてしまった。これが世界中に広まったピルスナーの始まりです。

なぜそうなったのか。ミュンヘンの水は重炭酸イオンの多い硬水で、これが麦芽の殻からタンニンを溶け出させ、煮沸中の反応を進めて色を濃くします。対してピルゼンの水は非常に軟らかい。同じ手順でも、水が違うので色が違った(出典:日本醸造協会誌『仕込(1)』)。

実際、世界のビールの産地は水質と対応しています(出典:Murphy & Son/Bru’n Water)。

  • バートン・オン・トレント、エジンバラ:ペールエール
  • ロンドン:ポーター
  • ダブリン:スタウト
  • ピルゼン:ラガー

土地の水に合うビールが、その土地のスタイルとして残ったということです。

軟水は淡色ビール向き、重炭酸の多い硬水は濃色ビール向き
軟水は淡色ビール向き、重炭酸の多い硬水は濃色ビール向き

日本の水は、淡色ビール向き

日本の水は、おおむね硬度3〜5°dHの軟水です。これはそのまま淡色ビールに向いた水質です(出典:日本醸造協会誌『仕込(1)』)。

ここで出てきた「°dH」はドイツ硬度(読みは「デーハー」)。ビール醸造では水の硬さをこの単位で言います。1°dHは、水1Lに酸化カルシウム10mg分のミネラルが溶けている硬さ(炭酸カルシウム換算で約17.8mg/L)。目安はこうです。

区分ドイツ硬度水の性格向くビール
軟水0〜8.4°dH未満ミネラルが少ないホップの苦味がすっきり効いた、淡色でクリアなビール(ピルゼン系・ピルスナー)
中硬水8.4〜14°dH適度なミネラルバランスの良い味わい
硬水14°dH以上カルシウム・マグネシウムが豊富。麦芽の成分やタンニンを多く引き出すコクや苦味がしっかりした色濃いビール(ミュンヘン・ラガー)

日本の3〜5°dHは、軟水の中でもかなり軟らかい側です。

日本のビールがピルスナー系中心に発展したのは、もちろん明治期に誰を招いたかという歴史の問題もありますが、水がそれを許したという面もあります。

醸造用水に求められる条件

では、どんな水ならビールが造れるのか。まず飲める水であること。その上で、淡色ビール向けにはこうした条件が挙げられています(出典:日本醸造協会誌『仕込(1)』/東京国税局鑑定官室 鈴木崇)。

  • 軟水で、重炭酸・炭酸塩が少ない
  • 亜硝酸・アンモニアが検出されない
  • 鉄0.02ppm以下、マンガン0.02ppm以下
  • 有機物が少ない

特に鉄は要注意です。ごく微量でも、ビールの味を金属的にし、酸化を進めます。井戸水を使う場合、ここは必ず分析します。

醸造用水の分析。鉄やマンガンは0.02ppm以下が目安
醸造用水の分析。鉄やマンガンは0.02ppm以下が目安

カルシウムが、仕込みの pH を下げてくれる

ミネラルの中で、醸造家がいちばん気にするのがカルシウムです。

カルシウムは麦芽に含まれるリン酸塩と反応して水素イオンを放出し、麦汁のpHを下げます。何もしないと5.8〜6.0あたりのところが、5.3〜5.5に落ち着く(出典:Murphy & Son/Bru’n Water)。

pH(醸造の現場では「ペーハー」と読みます)は、酸性・アルカリ性の度合いを0〜14で表す数字。7が中性で、小さいほど酸性です。仕込みで狙う5.3〜5.5は「ちょっと酸っぱい側」。

ものpH性格
レモン約2強い酸性
できあがったビール約4酸性
仕込みで狙う麦汁5.3〜5.5ちょっと酸っぱい側
水道水約7中性
海水約8弱いアルカリ性

なぜ下げたいのか。仕込みのpHが高いままだと、

  • 苦味が粗くなる
  • 麦芽の殻からタンニンが溶け出す
  • 発酵後にダイアセチル(バターのような香り)が抜けにくくなる

といった不都合が出ます(出典:Bru’n Water)。実務では5.3〜5.5を狙うのが定石です。逆に5.2を下回るとタンパクが出すぎるので、下げればいいというものでもありません。

カルシウムには他にも仕事があります。酵素を熱から守る、タンパクを固めて麦汁を澄ませる、発酵の終わりに酵母をきれいに沈ませる。目安は50〜100ppm、最低でも40ppmは欲しいとされています(出典:Murphy & Son/Bru’n Water)。

カルシウムが麦芽のリン酸塩と反応して、麦汁のpHを下げる
カルシウムが麦芽のリン酸塩と反応して、麦汁のpHを下げる

硫酸塩と塩化物の比率で、キャラクターが変わる

もうひとつ、覚えておくと面白い数字があります。

硫酸イオンと塩化物イオンの比率で、ビールの印象が変わります(出典:Murphy & Son)。

  • ビター(苦味を立てたいビール):2対1
  • マイルドエール:1対2
  • スタウト、ポーター:1対3

硫酸塩が多いと苦味がシャープに伸び、塩化物が多いと丸く甘みを感じる方向に働きます。水は「足りないものを足す」だけでなく、狙う味に合わせて設計するものです。

うちの仕込み水も、造るビールによって調整を変えています。バラのビールを仕込んだときも、水質の数値を決めてから仕込みに入りました。

まとめ

  • ビールの約90%は水。量でいえばいちばん多い原料
  • 世界のビールスタイルは、その土地の水質と対応して育った
  • 日本の水は3〜5°dHの軟水で、淡色ビール向き
  • カルシウムが麦汁pHを5.3〜5.5へ下げる。高いままだと苦味が粗くなる
  • 硫酸塩と塩化物の比率で、苦味のシャープさと丸さが変わる

次回は「なぜ麦汁を煮沸するのか」。ただ煮ているだけに見えるあの1時間で、何が起きているのかを見ていきます。

このシリーズはYouTube「チェリーベル・ジャパン」でも、動画版を出しています。

https://youtu.be/nx5BmuOQNZ0

この記事を書いているのは

福岡県福津市のクラフトビール醸造所 GOLDEN BREWERY(ゴールデンブルワリー)です。運営はチェリーベル・ジャパン株式会社。500Lの仕込み設備で、自社ブランドのビールを造りながら、他社さんのビール造りのお手伝いもしています。

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