なぜビールは「麦芽」で作るのか|醸造学のきほん #01
こんにちは。ゴールデンブルワリーの児玉です。

今日から「醸造学のきほん」というシリーズを始めます。
「なぜ麦芽を使うのか」「ホップはなぜ苦いのか」「ビールの泡はどうやってできるのか」。ビール造りを勉強していると出てくる素朴な疑問を、ひとつずつ取り上げていきます。
教科書の受け売りではなく、実際に500Lの仕込みをやっている現場の目線で、うちの仕込み場で確かめながら書きます。数字や仕組みの裏取りには、モルトメーカーや業界団体、研究機関が公開している資料を使い、必要なところで出典を添えます。
第1回は、いちばん最初の疑問から。
ビールの原料は麦。でも「大麦」そのままじゃない

ビールの原料が麦だというのは、みなさんご存知だと思います。
でも、畑で採れた大麦をそのまま煮ても、ビールにはなりません。ビールに使うのは「麦芽(ばくが)」。英語で言うとモルトです。
大麦と麦芽、何が違うのか。ここに、ビール作りの一番大事な仕組みが隠れています。
大麦の中身は、ほとんど「デンプン」


大麦の粒を割ってみると、中身はほとんどがデンプンです。お米やジャガイモと同じ、植物が蓄えたエネルギーの塊。
一方で、ビールのアルコールを作ってくれるのは「酵母」という微生物です。酵母は糖を食べて、アルコールと炭酸ガスを出します。
ここで問題がひとつ。酵母は、デンプンを食べられません。
デンプンは、糖がたくさん鎖のようにつながったもの。酵母の口には大きすぎるんです。酵母が食べられるのは、鎖がほどけた「糖」だけ。
つまり、大麦のデンプンを糖に変えてやらないと、酵母は仕事ができない。これが、ビール作りの出発点です。
麦に「春が来た」と思わせる




じゃあ、どうやってデンプンを糖に変えるのか。
答えは「発芽」です。もう少し言うと、麦に「春が来た」と勘違いさせることです。
大麦の粒は、芽を出すためのエネルギーを、デンプンの形で溜め込んでいます。芽は出たばかりのうちは自分で栄養を作れないので、この蓄えを使って伸びていくわけです。水に浸けると麦は春が来たと思い込み、芽を出す準備を始めます。ところが、デンプンはそのままでは芽のエネルギーになりません。粒が大きすぎるからです。
そこで麦は、自分の中に「消化液」を作り始めます。この消化液がデンプンを一口サイズの糖にほどいていく。この消化液の正体が、酵素(アミラーゼ)です。
身近な例があります。ご飯をよく噛んでいると、だんだん甘くなりますよね。あれは唾液に含まれる酵素が、ご飯のデンプンを糖に変えているからです。麦芽の中で起きているのは、これとまったく同じことです。
芽が伸びきってしまう前に、熱風で乾かしてストップをかける。これが麦芽です。つまり麦芽とは、「春が来たと思って消化液を作った麦を、芽が伸びる前に乾かして眠らせたもの」。
仕込みのときにお湯に浸けてやると、眠っていた消化液が目を覚まして、デンプンをどんどん糖に変えていきます。こうして甘い麦汁(ばくじゅう)ができます。
うちの仕込み場でも、麦芽を入れて1時間ほど経つと、部屋じゅうが甘い香りになります。あれは、麦芽の消化液がちゃんと働いている証拠です。
乾かす温度で、色と味が決まる



もうひとつ、覚えておくと面白いことがあります。
発芽を止めるときの「乾かし方」で、麦芽の色と味がガラッと変わります。
- 低めの温度でやさしく乾かすと、淡い色の麦芽(ピルスナー麦芽など)。すっきりした味
- 少し高めだと、琥珀色で香ばしい麦芽(ミュンヘン麦芽など)
- 高温で焙煎すると、コーヒー豆のように黒くて香ばしい麦芽(ロースト麦芽)
ビールの色は、ほぼここで決まります。黒ビールが黒いのは、黒い麦芽を使っているから。魔法ではなく、焙煎の温度です。
この前作ったバラのビールは、ピルスナー麦芽を中心にしました。バラの色を邪魔しないように、いちばん淡いものを選んだからです。
麦芽を、一粒噛んでみてください

もし麦芽が手に入ることがあったら、一粒噛んでみてください。
ほんのり甘いはずです。その甘さが、ビールの甘みとアルコールのもとになる「糖」。麦芽の消化液が、すでに少し働いた跡です。
まとめ

- ビールは大麦ではなく「麦芽」で作る
- 大麦の中身はデンプン。でも酵母はデンプンを食べられない
- 水に浸けると麦は「春が来た」と勘違いし、デンプンを糖に変える消化液(酵素)を作る。それを乾かして止めたのが麦芽
- 乾かす温度で、麦芽の色と味、つまりビールの色が決まる
次回は「麦芽は、普通の大麦とどう違うのか」。今日の話をもう一段深掘りします。
このシリーズはYouTube「チェリーベル・ジャパン」でも、動画版を出しています。図解と仕込み場の様子つきなので、あわせてどうぞ。
この記事を書いているのは
福岡県福津市のクラフトビール醸造所 GOLDEN BREWERY(ゴールデンブルワリー)です。運営はチェリーベル・ジャパン株式会社。500Lの仕込み設備で、自社ブランドのビールを造りながら、他社さんのビール造りのお手伝いもしています。
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