ホップは、何のために入れるのか|醸造学のきほん #07

こんにちは。ゴールデンブルワリーの児玉です。

「ホップ=ビールを苦くするもの」。だいたいそう思われています。半分は合っていますが、半分は足りません。

ホップには少なくとも5つの役割があります。**苦味は、そのうちのひとつ**にすぎません。

ホップの5つの役割

大手メーカーの資料では、ホップの役割はこう整理されています(出典:キリンホールディングス)。

  • **苦味**:α酸が煮沸で異性化して苦味になる
  • **香り**:精油成分が華やかな香りを与える
  • **抗菌性**:ビールを腐らせる菌を抑え、日持ちさせる
  • **泡**:イソα酸が泡の形成と保持に効く
  • **清澄**:余分なタンパクを固めて、ビールを澄ませる

業界団体の資料では4つの役割として整理されていますが、中身はほぼ同じです(出典:ビール酒造組合)。

ここで注目したいのが**3番目の抗菌性**です。冷蔵庫も殺菌技術もなかった時代、ホップは「腐りにくくする材料」でした。長い航海に耐えるビールを、という発想から生まれたスタイルもあります。苦味は、その副産物として受け入れられていった面がある。**ホップは保存料として採用され、風味として定着した**わけです。

ホップの中身は、意外と地味

ホップの毬花(まりばな)を分析すると、こんな組成です(出典:Hopsteiner)。

  • 水分:10%
  • セルロース:24%
  • 糖:12%
  • タンパク:16%
  • ミネラル:8%
  • タンニン:5%
  • **苦味物質:21%**
  • **精油:2%**

醸造家が欲しいのは、下の2つだけです。とくに香りを担う精油は、たった2%。**この2%のために、あの量のホップを入れている**ことになります。

苦味の正体:α酸とイソα酸

前回も少し触れましたが、苦味の話をもう少し丁寧に。

ホップに入っている苦味のもとは「α酸」です。ところがα酸は、そのままでは水にほとんど溶けません。**煮沸の熱で構造が変わり「イソα酸」になって初めて、ビールの苦味として溶け込みます**(出典:John I. Haas)。

α酸の中身は単一ではなく、フムロンが35〜70%、コフムロンが20〜65%、アドフムロンが10〜15%という内訳です(出典:同上)。

このうちコフムロンについては、「コフムロンが低いホップほど苦味が上品」という説が長く語られてきました。ただ、大手ホップ商のHaasは自社資料で、**この説は科学的根拠が薄いと明記しています**(出典:同上)。伝統的な評価と実験室の結果が食い違っている例のひとつです。

なおβ酸(ルプロン)という成分もありますが、こちらは醸造上ほとんど価値がなく、乳酸菌などへの抗菌性があるだけとされています(出典:同上)。

煮る時間と、苦味の量

どれだけ苦くなるかは、入れる量と煮る時間で決まります。

同じα酸量で煮沸時間だけ変えた実測では、苦味の単位(BU)が、30分で23、60分で29、90分で33、120分で36と伸びていきます(出典:VLB Berlin)。

また、**pHが高いほど異性化が進みます**(出典:同上)。#05でお話しした仕込み水のpHが、ここでも効いてくるわけです。水・糖化・煮沸は、それぞれ独立した工程に見えて、実際にはつながっています。

クラフトビールは、ホップを10倍使う

最後に、量の話を。

一般的なビールに比べて、クラフトビールはおよそ10倍のホップを使うとされています(出典:日本醸造協会誌/サッポロビール育種史)。

10倍と聞くと「10倍苦いのか」と思われそうですが、そうではありません。**苦味を出すためではなく、香りを取るために入れている**分が多いのです。煮沸の終わりや、発酵後の冷たいビールに入れる使い方では、苦味はほとんど増えません。

その話は次回にやります。

まとめ

  • ホップの役割は苦味・香り・抗菌性・泡・清澄の5つ
  • もともとは保存料として採用され、風味として定着した
  • 毬花の中で醸造家が使うのは、苦味物質21%と精油2%だけ
  • α酸は煮沸でイソα酸になって初めて苦味になる。pHが高いほど異性化が進む
  • クラフトビールがホップを10倍使うのは、苦味より香りのため

次回は「ホップの香りはどこから来るのか」。800を超える香り成分と、ドライホッピングの話です。

このシリーズはYouTube「チェリーベル・ジャパン」でも、動画版を出しています。

この記事を書いているのは

福岡県福津市のクラフトビール醸造所 GOLDEN BREWERY(ゴールデンブルワリー)です。運営はチェリーベル・ジャパン株式会社。500Lの仕込み設備で、自社ブランドのビールを造りながら、他社さんのビール造りのお手伝いもしています。

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