麦芽と大麦は、何が違うのか|醸造学のきほん #02

こんにちは。ゴールデンブルワリーの児玉です。

前回、ビールは大麦ではなく「麦芽」で作る、という話をしました。麦芽とは、大麦を一度発芽させて、途中で乾かして止めたものです。

では、発芽させる前と後で、麦の中身は何が変わっているのか。今日はそこを、粒の中に入って見ていきます。

ゴールデンブルワリーの仕込み場から、醸造学のきほんをお届けします
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大麦の粒は、3つの部屋でできている

大麦の粒は、大きく3つに分かれています。

ひとつめが「胚(はい)」。芽と根になる、生きている部分です。粒全体から見るとほんの数パーセントしかありません。

ふたつめが「胚乳(はいにゅう)」。粒の大部分を占める、デンプンの貯蔵庫です。芽が出て自分で栄養を作れるようになるまでの、エネルギーの蓄えがここに入っています。

みっつめが「穀皮(こくひ)」。粒を包んでいる殻です。これは後で、仕込みのときに麦汁を濾す「フィルター」として働いてくれます。大麦がビールの原料として優れている理由のひとつが、この殻が最後まで粒に張りついたままでいてくれることです(出典:英国モルトスター協会)。

大麦の粒は胚・胚乳・穀皮の3つでできている
大麦の粒は胚・胚乳・穀皮の3つでできている

製麦とは「ほどいて、止める」こと

英国のモルトスター協会は、麦芽づくりをこう説明しています。製麦する側は発芽を熱で「ロック(施錠)」し、醸造する側が仕込みで「アンロック(解錠)」する、と。

発芽が始まると、粒の中では、ぎっしり詰まったデンプンのまわりを固めていた壁やタンパクがほどけていきます。この「ほどけ具合」を、専門用語で溶解(モディフィケーション)と呼びます。

ほどけすぎると、デンプンそのものが芽の成長に使われて減ってしまう。ほどけ足りないと、仕込みのときに酵素がデンプンにたどり着けない。だから製麦とは、ちょうどいいところで熱を入れて時間を止める技術なのです。

左が大麦、右が麦芽。見た目は似ているが、中のほどけ具合が違う
左が大麦、右が麦芽。見た目は似ているが、中のほどけ具合が違う

水に浸けて、4日から6日待つ

実際の工程は、大きく3つです。

まず「浸麦(しんばく)」。14〜20℃の水に、20〜48時間ほど浸けます。乾いた大麦の水分は1割ちょっとですが、これで4割台まで吸い上がります(出典:Viking Malt)。

次が「発芽」。14〜22℃で4〜6日。ここが肝で、粒の95%以上がちゃんと芽を出さないと、麦芽用の大麦としては失格です(出典:Viking Malt)。

このとき、発芽槽の中は意外と熱くなります。麦が呼吸して熱を出すので、放っておくと人の体温を超えてしまう。だから床下から冷たい風を送って、15℃前後に保ちます。根は1粒から数本、2〜3センチまで伸びます(出典:サッポロビール)。

そして最後が「焙燥(ばいそう)」。熱風で乾かして、酵素を働ける状態のまま眠らせます。この工程は次回、じっくりやります。

発芽槽の中。麦が呼吸して熱を出すので、冷風で15℃前後に保つ
発芽槽の中。麦が呼吸して熱を出すので、冷風で15℃前後に保つ

発芽した麦は、きゅうりの匂いがする

発芽を終えてまだ乾かしていない麦芽を、業界では「緑麦芽(グリーンモルト)」と呼びます。これがどんな匂いかというと、きゅうりのような青くささです(出典:酒類総合研究所)。

乾かすと、この青くささが飛んで、あの香ばしい麦芽の香りに変わります。乾かす工程には、水分を飛ばすだけでなく「生の穀物臭を消す」という役割もあるわけです。

麦芽に向く大麦、向かない大麦

どんな大麦でも麦芽になるかというと、なりません。

タンパク質の量が目安で9.5〜12.5%(出典:コーネル大学)。タンパクが多いとその分デンプンが減り、ビールになる成分が減ってしまいます。英国のモルト会社クリスプは「窒素が上がるとデンプンが下がり、エキスが減る」と端的に書いています。

日本のビールに多く使われるのは、粒が大きくてデンプンの多い「二条大麦(にじょうおおむぎ)」です。穂を上から見たときに、粒が2列に並んでいるからこの名前です(出典:サッポロビール)。

それから、品種を混ぜてはいけません。品種が違うと水を吸う速さが違うので、同じ槽で浸けると、ほどけ具合にムラが出ます(出典:カナダ麦芽大麦研究機構)。

粒が大きくデンプンの多い二条大麦が、日本のビールの主役
粒が大きくデンプンの多い二条大麦が、日本のビールの主役

まとめ

  • 大麦の粒は胚・胚乳・穀皮の3つ。デンプンは胚乳に入っている
  • 製麦とは、発芽で粒の中身をほどき、ちょうどいいところで熱を入れて止める技術
  • 工程は浸麦(20〜48時間)→発芽(4〜6日)→焙燥。発芽率95%以上が条件
  • 麦芽に向くのはタンパクが9.5〜12.5%の大麦。品種を混ぜると溶解にムラが出る

次回は「麦芽の色は、乾かす温度で決まる」。淡い金色から真っ黒まで、同じ大麦がどうしてあんなに変わるのかを見ていきます。

このシリーズはYouTube「チェリーベル・ジャパン」でも、動画版を出しています。

この記事を書いているのは

福岡県福津市のクラフトビール醸造所 GOLDEN BREWERY(ゴールデンブルワリー)です。運営はチェリーベル・ジャパン株式会社。500Lの仕込み設備で、自社ブランドのビールを造りながら、他社さんのビール造りのお手伝いもしています。

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