麦芽の色は、乾かす温度で決まる|醸造学のきほん #03

こんにちは。ゴールデンブルワリーの児玉です。

ピルスナーの淡い金色と、スタウトの真っ黒。あの色の差は、何で決まっていると思いますか。

黒い何かを足しているわけではありません。**同じ大麦を、どの温度で、どれだけ乾かしたか**。それだけで、あそこまで変わります。

乾かす温度が上がるほど、麦芽は淡い金色から黒へ
乾かす温度が上がるほど、麦芽は淡い金色から黒へ

焙燥(ばいそう)には、4つの仕事がある

発芽を終えた麦を熱風で乾かす工程を、焙燥と呼びます。この工程の目的は4つあります(出典:Brewers Association/Craft Brewers Conference 2015)。

  • 色と風味をつける
  • 水分を飛ばして保存できるようにする
  • 酵素の活性と溶解を、ちょうどいいところで止める
  • 生の穀物臭を抜く

前回お話しした「緑麦芽のきゅうりのような青くささ」が消えて、香ばしい麦芽の香りに変わるのが、この工程です。

大事なのは「濡れているうちは、熱くしない」

焙燥は一気に高温で乾かすわけではありません。段階を踏みます。

1時間ほどかけて50℃あたりまで上げ、そこから12〜24時間、50〜60℃の低温で水分を45%から12%あたりまで落とす。水分が下がってから60〜85℃へ、最後に85〜105℃で4時間ほど「キュア(仕上げ)」をかける(出典:同上)。

なぜこんな回りくどいことをするのか。**酵素は、水分が多い状態だと熱に弱いから**です。濡れたまま高温にすると、次の仕込みで使うはずの酵素が壊れてしまう。だから「水分が多いうちは低温、温度を上げるのは水分が下がってから」。サッポロビールの技術者も同じことを、「50℃程度でまず水分を飛ばし、その後80℃以上に上げて香ばしさを出す」と説明しています。

実際、仕上げの温度を82℃から93℃に上げただけで、デンプンを糖に変える力(糖化力)がほぼ半減したというデータもあります(出典:同上)。11℃の差が、それだけ効きます。

水分が多いうちは低温でじっくり。温度を上げるのは、水分が下がってから
水分が多いうちは低温でじっくり。温度を上げるのは、水分が下がってから

色の正体は、メラノイジン

では、色はどこから来るのか。

糖とアミノ酸が熱で反応してできる「メラノイジン」という褐色の成分です(出典:酒類総合研究所)。玉ねぎを炒めると茶色くなる、パンの耳が焼き色になる、あれと同じ反応です。

この反応は80℃を超えたあたりから始まり、110〜180℃ではカラメル化も加わります。だから乾かす温度を上げれば上げるほど、麦芽は濃くなり、香ばしさが増していきます。

ただし、通常の焙燥窯は100℃を超えません。それ以上濃い麦芽は、コーヒー豆と同じようにロースター(焙煎機)で別に焼きます(出典:Brewers Association)。カラメル麦芽は130〜180℃、ロースト麦芽は200℃超という世界です(出典:酒類総合研究所)。

カラメル麦芽は「粒の中でプリンを作る」

特殊な麦芽の中で、いちばん面白いのがカラメル麦芽(クリスタル麦芽)です。

乾かす前の、まだ湿った緑麦芽をそのまま加熱します。すると粒の中で、デンプンが酵素の働きで糖に変わり、どろりと液状になる。それをさらに加熱すると糖がカラメル化し、冷えると固まって結晶になる(出典:Crisp Malt)。

**粒の殻の中で、重湯からプリンのソースを作っているようなもの**です。これを噛むと、飴のような甘さと香ばしさがします。ビールに厚みと甘い香りを与えたいときに使います。

カラメル麦芽は、粒の殻の中でデンプンが糖になり、カラメルになって固まったもの
カラメル麦芽は、粒の殻の中でデンプンが糖になり、カラメルになって固まったもの

数字で見る、麦芽の色

麦芽の色はEBCという単位で表します。数字が大きいほど濃い色です(出典:Weyermann製品カタログ)。

  • ピルスナー麦芽:2.5〜4.5
  • ウィーン麦芽:6〜9
  • ミュンヘン麦芽:12〜25
  • カラミュンヘン:80〜160
  • カラファ(黒麦芽):800〜1000

ピルスナーと黒麦芽では、200倍以上の差があります。とはいえ黒麦芽を全量使うわけではなく、淡色麦芽をベースに数パーセント混ぜて色と香ばしさを出す、という使い方が普通です。

淡い麦芽からは淡いビール、黒い麦芽からは黒いビール
淡い麦芽からは淡いビール、黒い麦芽からは黒いビール

濃い麦芽ほど、酵素は残っていない

ひとつ、覚えておくと役に立つことがあります。

強く焼いた麦芽ほど、酵素は失われています。淡色麦芽ならデンプンを分解する酵素はほぼ残っていますが、濃色麦芽では半分以上が失われます(出典:Brewers Association)。

だから黒ビールを造るときも、**酵素を持っている淡色麦芽が土台**で、黒い麦芽は色と風味の役。真っ黒な麦芽だけで仕込もうとしても、糖になりません。

黒ビールでも土台は淡色麦芽。黒い麦芽は色と風味の役
黒ビールでも土台は淡色麦芽。黒い麦芽は色と風味の役

まとめ

  • 麦芽の色は、乾かす温度と時間だけで決まる。色のもとはメラノイジン
  • 焙燥は段階的に。水分が多いうちは50〜60℃、下がってから80℃以上へ
  • 仕上げ温度が11℃違うだけで糖化力がほぼ半減するほど、酵素は熱に弱い
  • 濃い麦芽ほど酵素が失われる。黒ビールでも土台は淡色麦芽

次回は「デンプンが糖に変わる日」。仕込みのお湯の温度を1℃変えるだけでビールの飲み口が変わる、その理由を見ていきます。

このシリーズはYouTube「チェリーベル・ジャパン」でも、動画版を出しています。

この記事を書いているのは

福岡県福津市のクラフトビール醸造所 GOLDEN BREWERY(ゴールデンブルワリー)です。運営はチェリーベル・ジャパン株式会社。500Lの仕込み設備で、自社ブランドのビールを造りながら、他社さんのビール造りのお手伝いもしています。

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